【アイデアノート】最終話 それから一年

◆それから1年

それから1年が経った。晴れ男はある老人ホームに来ていた。ICレコーダーを持って、あるおじいちゃんの話を聞いていた。

「私はな、独りなんじゃよ。誰もいない。この企画に参加したのも、まわりのみんなが参加しろって言うからだよ。何もない人生を送ってきたんだ。」

晴れ男はにこっと笑って答えた。

「そうですか。じゃあ、何もないと言われる人生について聞かせて下さい。僕は、それを聞きたいんです。」

「はぁ?、何もないんだよ。結婚もしなければ、子供もいない。何も残ってないんだよ、俺には。」

「じゃあ聞きます。今までで一番悔しかったことは?」

「は?悔しいことなんて、すべてが悔しいにきまってるだろ。」

「今、頭に浮かんだことをきかせて下さい。頭に思い浮かんだことです!」

「・・・・」

「それが、一番悔しいことです。」

「・・・・」

「難しいですね。じゃあ、今度は質問を変えます。今までで一番悲しかったことは?」

そのおじいちゃんは、少し涙目になっていた。

「おまえにわかるか。俺の人生が。」

「わかりません。だから聞いてるんです。」

「・・・・」

「心は素直なもんです。もうあなたの頭には浮かんでますね。あなたの人生が。」

「・・・・」

「山田さん、聞かせて下さい。お願いします。」

「・・・施設、・・・仕事、・・・妹、・・・・・結婚式だな・・・」

おじいちゃんの、その表情は落ち着いていて、しんみりと語る。妹の結婚式に出られなかった事。一晩中泣き明かした事。自分なんてどうでもよかった。ただ、その結婚式にでなかった事が悔しくて心残りだという事。晴れ男は言う。

「山田さん、ありがとうございます。」

このヒアリングは、何日間に分けて、少しずつ昔の事を聞いていく。

晴れ男は、また来ますと言い、その日は去って行った。

           *

そして、数日後、またおじいちゃんとのヒアリングを始めた。おじいちゃんは黙っていた。すると晴れ男が言う。

「今日はゲストを呼んでいます。どうぞ、入ってください。」

すると、部屋のドアが開く。
その姿を見ると、おじいちゃんの表情が変わる。「お、おまえ・・・」
おじいちゃんの妹さんだった。兄の顔を見ると涙でいっぱいになった。おじいちゃんも涙を流した。おじいちゃんは言う。

「す、すまない・・・」

妹は何回もうなづきながら、

「うん、わかってる。いいのよ、いいの。私の方が悪かったんだから。」

それから、二人の話が始まった。晴れ男はICレコーダーをそっと置き、その場を去った。

        *

晴れ男は、待ってる時間思っていた。どんな人でも人生ドラマがある。心の中にしまってある扉を開けば、そこにはいくつものストーリーがある。それはもしかしたら自分では気づいてないかもしれないストーリー。でもそれもこれも、人との関わり合いがあるから。

人は絶対親から生まれ存在する。そして、人とかかわっていく。それによって、必ずドラマやストーリーが生まれる。
       *
何時間たっただろうか。妹さんが部屋から出てきた。そして、

「ありがとうございます。」

と言う。晴れ男は、「こちらこそ」と言い、部屋に入った。
そしておじいちゃんに言う。

「山田さん、今までありがとうございます。」

山田さんは、え?と言う表情だ。

「僕は、○○建設の息子です。父の後を継いでもらってありがとうございます。」

「あ・・・親方の??」

「はい、そうです。本当に感謝しています。」

山田さんは、さらに涙を流し、「そうか、そうか」と言っている。晴れ男は、山田さんの父の後をついでからの話を聞いた。山田さんも心を開いて話してくれた。

         *

晴れ男は、製本するために事務所に向かう。

一方、友人Aの方は。「自分史」サイトの管理をしていた。学生、サラリーマン、主婦、ニート、障害者、どんな人でもブログ感覚で自分史を作成できるサイトを運営していた。

以外に多かった利用者が、障害者と40代独身女性だった。晴れ男が事務所に帰ってくると、友人Aは言う。

「お疲れさま。今日はそれ1本で終わり?たまにはゆっくり休めよ。」

「いや、今日はあと1本あるんだ。」

「あと1本?」

「そう、1本はこれから。」

「これからって、もう遅いぞ?」

「それはキミが決めてくれ?」

「うん?どういうこと?」

「今日は会社設立一周年。キミの自分史の取材をしたいから。」

友人Aは驚いた顔で、「お、おれの?」といった感じだったが、しばらくして、

「わかった。よろしく頼むよ。」

続けて、

「ありがとう」

と言った。

        *

人には誰にでも「人生ドラマ」がある。それは、若くして亡くなった人にも。事故や天災で亡くなった人にも。俺は平凡な人生だったと思っていても、思い返すとそこにドラマがある。派手な人生がいいんじゃない。平凡な人生がいいともいわない。自分がこう生きてきたという確信こそがドラマなのだ。自分だけしか知らない自分のドラマ。

        *

晴れ男と友人Aは、ヒアリングを始めた。手に持っていたのは「アイデアノート」ではなかった。そこには、「自分史」と書かれていた。分厚いノートだ。そして「自分史」と書かれた表題の下に氏名が書けるようになっている。晴れ男は、その氏名欄に友人Aの名前を書き、こう言う。

「じゃあ、生誕から聞きます。ああ、そんなに堅くならなくていいですよ。」

晴れ男は笑顔になっていた。友人Aも笑っていた。

平成27年4月25日 アイデアノート 完

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