【アイデアノート】第二十五話 ステージ

◆ステージ

友人Aは無事退院した。いつもの日常が戻り、晴れ男はまじめに働いていた。自分のアイデアを友人Aに伝えることはなく、ただ日々を過ごしていた。そんなある日、友人Aがオフィスに来るように言ってきた。晴れ男は、自分の仕事が終わると、友人Aのオフィスに向かった。

「こんにちは。お疲れ様です。」

「こんにちは。」

オフィスは以前と変わらず、社員たちは静かにパソコンに向かっていた。事務の子に案内されて、談話室に入った。しばらくして友人Aが来る。

「おお、久しぶり。入院中は迷惑かけたな。プロジェクトも無事終わり助かったよ。」

「いえ、そんなことないです・・・」

「それで、報酬だけど、これ、現金で渡すよ。今日はその話。」

「あ、ありがとうございます。」

晴れ男は現金の入った封筒を受け取り、しばらく友人Aと話していた。そして、友人Aのひと言から話はアイデアの話に。

「そういえば、最近電話してこないじゃないか。アイデアノート。」

「いや、アイデアは考えていて、あるアイデアをどうすれば実現できるかって考えているところで・・・」

「あるアイデア?」

「そう、自分はこれだなっていうアイデアに行きついて。」

「そのアイデアはどんなものだい?」

「まあ、『自分史』っていうんだけど。」

「自分史?」

「そう、人それぞれ人生がある。でも、ほとんどが注目されない人生で、自分の中だけで終焉を迎えてしまう。だけど、他から見ると普通の人生と思えても、その人自身には、さまざまな人生ドラマがある。それを残していきたいって思って。」

「なるほど」

「自分も、親や祖父祖母の事はあまり知らないし、親や祖父祖母がどう思っていたのかなって・・・そういうのって、自分が誕生する意味にも繋がってくるし、単純に知りたい。」

友人Aは眉間にしわを寄せながら聞いていた。

何かを考えているようだった。

「おまえ、すごいじゃないか。やってみるか?」

「え?でも想いだけで具体的な事は何も思いつかなくて。」

「うん、どういう形でも実現できると思う。ビジネスモデルも考える必要がある。ただ、ターゲットはもう決まってるんじゃないかな。」

「ターゲット?」

「そう、俺が売り込むなら、老人ホームだ。」

なにか分からない、晴れ男は身が奮い立つような気持ちになっていた。
そう、晴れ男はステージに一歩踏み入れたのだ。
            *
仕組みはすぐ形になった。それは友人Aの行動力にあった。晴れ男のイメージをすぐ言葉にし、仕組みにしていった。まず、晴れ男が取材および、自分史の原本を作成すること。

友人Aがその材料をもとに、電子化、製本すること。また、話題性、効率性を考えて、ポータルサイトを構築すること。そのポータルサイト内でも、自分史の原本の投稿ができる。もちろん、個人情報保護やサイト内の構成はお手の物だ。ソフト開発のプロなので、この辺はセオリー通りだった。SEO対策も万全だった。また、営業は二人で回った。老人ホームを中心に、熱心に自分史への想いを訴えかけた。その成果もあって、徐々にこの自分史企画は広まっていった。そう、こうして二人の物語が始まったのだ。

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