◆友人Aとの会話
会社が終わってから、友人Aのオフィスに通うようになって、一週間が経とうとしていた。
晴れ男は、黙々と作業に集中していた。
「お疲れ様です。」
何人か帰ったようだが、晴れ男は気にせず仕事に打ち込んでいた。
時間がどのくらい経っただろうか。ふと、肩をポンッと叩かれ、声をかけられた。
「あまり無理するなよ。」
友人Aだ。
「あ、お疲れ様です。」
「明日も仕事だろ。」
「もうこんな時間か・・・」
時計の針は12時をまわっていた。
「おまえの集中力はすごいよな。昔からそうだった。」
「夢中になるとはまりこんじゃうんで・・・」
「それがいいところなんだけどな。」
「はぁ、まあ自分は突っ走っちゃうんで、失敗ばかり・・・」
友人Aは近くの椅子を持ってきて、ゆっくりと座り込んだ。
「おまえは、何をしたい?」
「え?」
「色々と起業のアイデアを考えてたみたいだけど、おまえ自身はどうなりたいのかってね・・・」
「あぁ・・・なんだろう・・・何も考えてないかも・・・」
「まあ人が動くのって理屈じゃないからね。それはいいさ。でも、自分がこうしたいって思うことに一生懸命になれるっていいね。」
「・・・」
「ほとんどの人が考えてない事だよ。というか、分からないっていった方がいいかな。」
「う、うん・・・」
しばらく沈黙が続き、友人Aが話し始めた。
「おまえ覚えているか?」
「ん?」
「高校3年の県大会のこと。」
「ああ、きみが優勝したときの試合だね。」
「試合前、みんな俺に期待して、がんばって、がんばってっていう中、おまえだけだったよ、あんなこと言ったの。」
「え?覚えてないな・・・」
「あはは、おまえ、負けたっていいじゃん、楽しんじゃえよって言ったんだぜ。」
「あ、そ、そうなんだ。」
「あの緊張感の中、お前だけが笑ってたよ。」
「・・・」
「いや、ふっきれたんだよ、その言葉でね。」
「・・・」
「おまえ、やれよ。」
「ん?」
「もっとアイデア出せよ。」
「うぅむ」
「アイデア考えてる時、夢中になれるし、楽しいだろ?」
「うん」
「それがお前だと俺は思うよ。」
「・・・」
まさか友人Aからそんな言葉が出るとは思わなかった。晴れ男は、帰りの道中、久しぶりに星空を見上げながら歩いていた。