【アイデアノート】第一話 ゆるキャラ

◆ゆるキャラ

晴れ男はテレビを見ていた。ゆるキャラ「ふなっしー」がバラエティ番組に出ている。ふなっしーは、縦横無尽に画面内を飛び回る。そのたびにテレビからは笑い声が聞こえてきた。動いても笑いが起こり、トークをしても笑いが起こる。

晴れ男はそのテレビをクスリとも笑わず静かに見ていた。テレビのリモコンをとり、少しボリュームを上げた。時よりうなづいては、人差し指を立て左右に軽やかに振っていた。そしてその番組が終わると、近くにあった紙切れに何か書きだした。

 ゆるキャラを考える
 見た目よりもインパクト
 見た目とのギャップ

それを書き終えると、満足げな笑みを浮かべてテレビを消す。すぐさま、ノートとペンとその紙切れを持って家を出る。向かった先は、行きつけの喫茶店だ。ちょっと遠くを見る感じで、その店に急ぎ足で歩いた。

        *

喫茶店に着くと、店員がおしぼりを置くか置かないかの間に、「アイスコーヒー」と言い、持ってきた紙切れを出し、ノートとペンをきれいに並べる。ノートをめくり、新しいページにする。〇月〇日と書き、先程の紙切れに書いた言葉をきれいにノートに書き写す。

しばらくノートを見つめながら、考え込んでいる。ペンをいじりながら、時たま何かを書き、途中でやめ、そんな仕草を繰り返す。そして、ちょっと強めにある言葉を書く。

 臭いゆるキャラ「くさやん」

するとおもむろに携帯を取出し、友人Aに電話する。

「もしもし、なに?」

「いいアイデアが浮かんだんだ!」

「また?」

「ゆるキャラなんだけど、やるなら今しかないよ。」

「もういい加減にしろよ。まじめに働け。」

「いいから聞いて。俺たちが住んでる地元って、くさやが有名じゃん。」

「・・・」

「そこで考えたのが、臭いゆるキャラの『くさやん』なんだよ。」

「・・・」

「本当に臭いんだよ!絶対匂いをかぎに全国から人が集まるって!」

「・・・あのさぁ、俺も暇じゃないんだよね。やるんだったら自分でやれば?今地元にゆるキャラいるし、それに宣伝費やなんやらでお金かかるし、そもそも、ゆるキャラの著作権はそのゆるキャラを描いた本人なんだよ。おまえに絵心あるか?そして、たとえお前がゆるキャラに応募し、それが万が一通ったとしても、儲かったお金は、応募元の自治体や企業に入るんだよ。」

「・・・そうか、難しいね」

「じゃあね、これから出かけるから。ガチャ!プーッ・・プーッ・・プーッ・・」

晴れ男は、そうかぁ、とうなだれる。
今が旬のゆるキャラのゆるさに、ビジネスもゆるく考えてしまったようだ。こんなゆるキャラだったら、自分でも考えられる、テレビ画面で見ると、こんなキャラクターでお金が設けられる、そんな安易な発想が浮かびそうだが、ヒットするには、それなりの理由がある。完成度が高いものが売れるわけではない。くだらないものが売れるわけではない。万人にウケる、広まる理由があるのだ。もちろんタイミングもある。

そんなことは分かっていたつもりだが、「くさやん」というキャラクターを思いついた時に、突き進む力を抑えることができなかった。
友人Aへの連絡も、期待に胸を膨らませての連絡だった。しかし、お金にならない、著作権の問題との回答に、それもそうだなと一転して納得してしまう晴れ男であった。

晴れ男は、電話を置いてノートに付け加える。

 お金がかかる
 著作権に問題がある
 お金にならない

そしてため息をつきながら、氷の解けたアイスコーヒーを飲みほすと、喫茶店を出る。

特に落胆した様子はない。とにかく次のアイデアを考えることに意識は変わっていた。めげないというよりは、楽しんでいる様子だった。本人はまじめに取り組んでいたのだが。絶対に成功してやる、そんな気持ちが彼を突き動かしていた。
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