そこは、高級クラブだった。
青年は、心配しながら扉を開ける。
「いらっしゃいませ。」
「あ、あの・・・」
「お客様、西山武志様でございますか。」
「はい、そうです。」
「こちらへどうぞ。」
青年は、クラブの奥の「VIP ROOM」と書かれた部屋へ通された。
緊張しながら席に座り、少し待つと、ドアが開いて誰かが入ってきた。鈴木竜だ。
「久しぶりだな、西山。」
「久しぶり。」
どうやら、話を聞くと、鈴木はその店のオーナーをしているらしい。
でも、ここに至る話を西山は切出すことが出来なかった。鈴木も語ることはなかった。
すると、ふと鈴木が聞いてきた。
「どうだ、齋藤オフィスは。」
「ああ、いい会社だよ。仕事もやりがいがある。」
「そうか、それはよかったな。」
西山は、鈴木のその優しい口調に、緊張もとれてきて、思い切って聞いてみた。
「ところで、鈴木はあれからどうしたんだ?」
「あれからって?」
「小学生3年生の時のあの別れから。」
鈴木は顔色一つ変えず話してくれた。
あれから、父の敵の「大山組」の神崎という人に助けられ、そこでやくざの生活を始めた。
生き抜くためには、神崎に頼って生活するしかなかった。付き人から始まって、汚いことはなんでもやってきた。
でも、鈴木はすぐに頭角を現す。この店を任されて、今では東部支部長として、若手では一番の出世を果たす。
そして現在、市政にも力を及ぼす力を持っている。
ららぽーとの仕掛け人もこの鈴木らしい。
もちろん、齋藤氏の絵画の移転も鈴木が主となって動いている。
その壮絶な生活は詳しく話さなかったが、西山には伝わってきた。
西山はつい口にした。
「すまなかった。あの時、うちに別れの挨拶に来てくれた時、なんにもできなかった。」
「あはは、それは心配かけたこちらが悪かったな、すまない。俺もガキで、なんでかお前の家に訪れてしまったからな。」
「でも・・・」
「西山よ、あの街では自分の生活は自分で守るのが流儀だろ?そうでなければやられてしまう。」
その眼光には鋭いものがあった。西山は委縮してしまった。
すると、鈴木はそれに気づいて、また優しい口調でこう言った。
「今は、この街の発展を一番に考えてる。ただそれだけだよ。」
西山は、齋藤氏の絵画について地元に置くべきだと言ったが、そんな西山の意志に比べると、なんとも中途半端な想いだと知らされた。
帰り道、人通りのない静かな通りを歩きながら、虚しさとやりきれない気持ちになっていた。
商店街では、クリスマスツリーの電装がぽつりぽつりと始まっていた。