正月のある日だった。
ピンポーンと家のドアフォンが鳴る。
少年は玄関のドアを開けた。
そこには、親友の鈴木が立っていた。
「お、どうした?」
「家が無くなった。今から出かけるよ。」
「??」
「もう会えないと思う。」
親友の鈴木は、顔色一つ変えず淡々と言って振り返ろうとした。
「おい、ちょっと待てよ。」
少年は鈴木の服を慌てて掴む。
鈴木は笑って言う。
「大丈夫だよ、なんとかなる。」
「とりあえず、うちに入んなよ。」
鈴木は、掴まれた手を振り払って走り出した。
少年はまずいと思って、うちにいた父に話した。
父は言う。
「追うな。お前に責任が持てるのか。」
少年は泣き出した。
まだ小学生3年の時だった。
~時は経て~
少年は青年になっていた。
学校を卒業し、派遣社員として働いていた。
青年は、駅前の実家に住み、父と母と暮らしてた。
兄弟は姉が1人いたが、すでに結婚し、実家を出ていた。
父は、これまた別の派遣会社を経営しており、外国人労働者を派遣に出していた。
母は専業主婦で、自治会の役員などを積極的にやっていた。
青年は今日も仕事に行く。
仕事に行く時はいつも電車とバスだった。
まあ自動車の免許を持っていなかったのだが、駅前に実家があるので、さほど気にすることもなかった。
今の派遣先は、製本の製造ラインだった。
単純作業で、流れてくる書籍にカバーをつけたりを時間まで繰り返し行う。
しかし、良いところもあった。
まだ発売前の写真集などを休み時間に見ることができたのだ。
そんな青年に、次の仕事がまわってきた。
それは、地元出身の有名画家、齋藤氏の個展のイベントのお手伝いであった。
青年は、絵を描くのが得意で、この仕事をとても楽しみにしていた。
齋藤氏の絵画を間近で見れる。そして何より齋藤氏に会える。
そんな想いで、その日が来るのを待ちわびていた。