齋藤氏に連れられて、小高い丘のあるこじんまりとした店に行った。
そこは、高級住宅街にある隠れ家のような、しゃれた会員制の店だ。
「人目がつくからね。こういう店にしか入れないんだよ。」
「いらっしゃいませ、あ、先生、ご無沙汰しています。」
店長らしき人が挨拶をする。
「個室いいかい?」
個室に通され、齋藤貴雄と二人っきりなった。
「まあ、好きなもの食べてくれ。遠慮しなくていい。」
青年は圧倒されていた。
すると、齋藤貴雄が話しかけてきた。
「西山君、キミ〇〇小中学校っていうことは、駅前近くかい?家は。」
「はい、〇〇町です。」
「そうか、私も中学までその辺に住んでたんだよ。その辺は言わなくてもわかってるか。」
食事が運ばれてきた。
青年にとっては、こんな個室で高級な食事をするのは初めてだった。
なんとも、緊張がとれなかった。
齋藤が言う。
「たぶん、たぶんだけどな、キミが思ってる事と同じことを私も思ってるんだよ。」
「??」
「移転なんだけどな、別に構わないんだよ。いや、商店街を見捨てるってわけじゃないんだよ。私は、絵を描くことが商売だから、多くの人に絵を見てもらいたい、ただそれだけなんだよ。」
「・・・」
「でもな、お金が絡んでくるとそうもいかなくてな。描きたくない絵も描かなくてはいけないんだ。」
「は、はい。」
「キミは、今回の作品の『故郷』は好きか?」
「はい、なんというか、絵のスケールも圧倒されますが、なんていうか温かさを感じます。地元ということもあってか、細かいところまで街並みが描かれていて、親近感もあります。」
「あの絵のようになってほしいんだがね、この街も。」
「・・・」
少し沈黙が続いた。すると、今度は青年の方から思い切って話しかけた。
「先生は、移転に反対なんですか。」
「そうだな。本心は自分の生まれ育った町に絵を飾ってもらいたい。同じ市内でも、やっぱり故郷だからな、街中は。」
「先生!やっぱり移転はやめましょう。故郷に飾るのが一番です。」
「わははは、まあいい。そういえば今度、ららぽーとの人間と話をするんだが一緒に来なさい。」
青年は、なぜだか興奮していた。
今まで我慢してきた想いが一気に噴き出しそうになった。
そう、青年は青年なりに苦悩していたのだ。
それは、走馬灯のように頭の中を巡っていた。