【365日 後編】第七話

NPO法人「飛龍会」。

かつて、大学病院に勤めるひとりの医者がいた。産婦人科に勤務していたが、どうしても叶えたい想いがあった。

それは、親と子の絆を繋ぎたい。

自分は、人の命を助けるために医者になった。しかし、現実はどうだろう。
もちろん、赤ちゃんの産まれる瞬間は、最上の歓喜に満ち溢れる。苦労、悲しみなんて感じる瞬間がない。

ただその一方、中絶する家族や、産まれても育てる経済力のない家族。難産で死んでしまう親、そして子供。そこには、幸せだけが存在しているわけではなかった。誕生が眩しすぎるだけに、暗闇が苦しすぎた。

同僚は言う。そんなんじゃ医者なんてやってけないよ、と。

その医者は、苦悩していた。相談を受けることも合った。でも、できないものはできないというしかなかった。現実を直視するのが医者だからだ。

障害を持ったお腹にいる子供を見て、親が言う。「大丈夫、授かった命なんだから。」

でもその医者は言う。「じっくりと考えて下さい。まだ中絶には間に合いますから。」

16才の女の子がひとりで病院に来る。その子は絶対産むという。誰の子かわからない、親にも言ってないという。

その時も言う。「まずお父さんお母さんに連絡しますね。それで、その子の父親を探しましょう。」

唯一黙っているときは、母親もしくは赤ちゃんが亡くなった時だった。
涙であふれる分別室を助産婦と看護師に任せて、ただ黙ってあとにする。

その医者の休憩室のような個室の壁は、拳で殴られた跡だらけで、少し血が滲んでいた。

そして医者が41才の時だった。彼は大学病院を辞めた。いや、医者を辞めた。
今まで貯めてきたお金を元に、NPO法人を作った。

最初は、児童保護施設「星の家」を設立し、子供を育てられない訳ありの子どもたちを引き取った。そして、徐々にその法人は大きくなっていった。

それが、NPO法人「飛龍会」であった。

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