そんな「飛龍会」も30周年を迎えたが、新聞の一面を飾ったのは、喜ばしき記事ではなく、幹部による脱税の記事だった。テレビに税務署の人間に立ち入り捜査をされる場面が映しだされた。
それを見ていたのが、「星の家」の施設長の山岡だった。山岡は、福祉大学を出て、この「星の家」に就職した。福祉の仕事をするのが夢で、その道を進んできた。しかし、一担当者として入所してすぐ、思い描いていた施設のイメージと現場のギャップに戸惑った。
毎日がケンカのようだった。施設にいたその子どもたちは、不幸を背負うというよりは、破茶目茶だった。いわば、不良グループである。
その苛立ちを表に出す子もいれば、おとなしそうに見えて、万引き犯であったり、また、面会に来る親もヤクザだったりした。
山岡はもう毎日が必死だった。
しかし、その頑張りを認められ、今では施設長になっていた。
テレビを見ていると、携帯が鳴る。相手は、飛龍会の役員でもあり、良き理解者でもある佐々木だった。山岡は電話にでる。どうやら、何回も着信があったみたいだが、気づいていなかったみたいだ。
佐々木は言う。
「すまない、こんな醜態を見せてしまって。」
山岡は黙っている。
「今、役員でマスコミの動きを止めるように動いている。不正を犯した幹部も数名のようだ。山岡には力を貸してもらう場面が出てくるかもしれない。俺も動いている。また連絡する。」
そう言って、電話は切られた。
山岡は、施設員を集めた。緊急会議と報告だ。
「みんな聞いてくれ、知っている者もいるだろうが、この施設のオーナーである飛龍会が脱税で世間を騒がしている。でも、いつもどおり勤務していて構わない。いざとなったら、この施設ごと『飛龍会』から独立する覚悟だ。」
山岡は怒りに満ちていたが、数日後、マスコミの報道がピタッと止んだ。ある芸能人の結婚報道が各社報道されるようになった。きっと佐々木らが動いたんだろうと察した。
山岡は佐々木からの連絡を待った。
施設はいつものように、一日のカリキュラムが行われていた。