【365日 後編】第十九話

神崎竜は泣いていた。

神崎会長はそれを温かい眼差しで見つめていた。

隆志は何も言わずにそっと部屋を出た。ドアの外には佐々木が立っていた。涙を拭うようにするしぐさを隆志は見逃さなかった。

「佐々木さん、俺も加勢するよ。」

「たかちゃん・・・」

「あはは、俺も大人になったって事。大体はわかってる。」

「・・・」

佐々木は思い出したように、「あ、山岡が待ってるんだ。来てくれ。」と言った。

      *

会議室を開ける。そこには山岡がいた。

隆志、山岡は笑みを浮かべる。何も言わずに、近づく。山岡が拳をまっすぐと隆志の胸に当てる。隆志も同じように拳を山岡の胸に当てる。すると二人は、席に座り、話しだす。

「山ちゃん、状況はどうだい。なにすりゃいい?」

「隆志、なんとも言えんな。もう八方塞がりだ。」

「そうか、次期会長はだれがなるんだい?」

「今日その役員会議がある。でも手がなくてね。」

すると、隆志は一枚の紙を山岡に渡す。山岡は驚いた顔をして、「勝てるかもしれない・・・」とつぶやいた。

      *

次期会長決定役員会

議論が続いた。勿論、役員の大半は反勢力だ。多数決で決めるしかないなという雰囲気が漂った。しかし、山岡が手を挙げる。

「ちょっと、待って欲しい。見てもらいたいものがある。」

部屋が暗くなり、プロジェクターから表のようなものが映しだされる。ひとりの役員が言う。

「なんだ。これは?」

山岡は説明する。

「これは、現在の飛龍会の収入源です。」

「なんだよ、そんなもん関係あるか!うちは各施設からの収入で成り立ってんだ。」

「いや、よく見て下さい。施設の収入30%、寄付金60%、その他10%となっています。」

「だからなんだ?」

山岡は、表情を変え言い放つ。

「飛龍会は2010年に、すでに潰れているんです。それをこうやって維持できているのは、寄付金の60%のおかげなんです。」

「・・・まあ、それはわかるが、寄付金があるってことは、それだけ知名度があるってことだろ。それをあんたら会長の方針でやった結果、汚職で信用失ってんだ。」

山岡は「それでは、次の表を見て下さい。これが寄付金の詳細です。」

一同、目を丸くした。

寄付金の9割が、児童施設「星の家」出身の人間だった。そして一番多いのが「星野隆志」となっていた。

山岡は続けて言う。

「この人たちは、私の教え子たちです。もし、現在稼働中の施設だけの収入となれば、飛龍会は1年で瀕死状態になります。それでも、会長を支持しませんか?」

みんな黙っていた。

「もう一度聞きます。次期会長は佐々木役員を推薦します。反対意見はありますか?」

すると、ひとり手を挙げる者がいた。佐々木だ。

「次期会長は、私ではなくそこに立っている山岡施設長を推薦します。」

山岡は、「なんで?佐々木さん。どうしたんだ?」と聞く。

「その寄付金、星の家を創設した神崎会長の力もある。でも一番は、山岡施設長にあると思う。なぜなら、山岡施設長の担当の子どもたちじゃないか。私はその時施設長だったから知っている。」

山岡は黙っていた。

「この子たちは、星野隆志さんとともに、365日働くと言っていた仲間だ。私は当時反対した。山岡先生を非難もした。でも山岡先生は、この金は必ず自分が返すからということで渋々承知した。私は忘れない。」

「そ、それはそうですが・・・」

佐々木はかぶせるように言う。

「我々は見失っていたようです。役員の皆さん、山岡さんの次期会長に賛成の方は挙手をお願いします。」

何人かが手を挙げ始めた。佐々木が言う。「我々の給与もこの寄付金がないとなくなるんです!」

反勢力も手を挙げ始めた。すると次へ次へと全員の手が挙がった。

「それでは、次期会長は『山岡士郎』で決定です。」

佐々木が締めた。と、その時、会議室の扉が開いた。元会長の神崎だった。

「すべてを見させてもらった。佐々木くん、ご苦労様。そして役員のみんな聞いて欲しい。私も山岡くんを推させてもらう。山岡会長よろしく頼む。」

山岡は一礼した。そして、神崎の横には、笑顔の星野隆志が立っていた。

すべてが始まり、つながった。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA