【365日 後編】第十八話

星の家の施設長の山岡と、飛龍会の役員の佐々木らが、会議室で話していた。

その日も、飛龍会内の反勢力に打ち勝つ案が出ずにいた。そこには理由もあった。役員の大半が反勢力だったからである。

山岡は都内のホテルに帰ると、真剣な面持ちでベッドに横たわった。ピーピーピーピーっと携帯がなる。相手は「隆志」であった。

山岡は、顔色が明るくなり、電話にでる。

「隆志・・・」

「山ちゃん、お久しぶり。」

なぜだか涙がでる。山岡はホッとした気持ちになり、今まで張りつめていた緊張が一気にとぎほぐされる。

「山ちゃん、どうしたの?」

「い、いや、すまない・・・」

「あ、飛龍会の会長さんに会いに行くから。」

「ん?どういう・・・」

「山ちゃんもそっちにいるって、副施設長に聞いたよ。副施設長の島ちゃん。」

そう言うと、隆志は電話を切る。山岡は、奮い立つ。そう、自分はここで止まってはいけない。いけない理由がある、と。

      *

隆志と神崎息子が会長に会いに都内の某ビルの前に立っていた。

神崎息子が弱音を吐く。

「今更、会わす顔もないよ。アポも取ってないし、隆志さん。」

隆志は笑いながら、「まあ行ってみよう。」と言う。

受付で「どちら様ですか?」と聞かれる。隆志は動じず、「山岡さんから聞いてない?星野隆志です。」

すると、受付の女性は、「し、失礼致しました。お部屋にご案内します。」と少し焦り気味だった。

神崎息子は、この堂々とした態度に、息子の俺だって緊張してるのになんで?と思っていた。

会長室に案内されると、役員の佐々木が待っていた。佐々木は言う。

「たかちゃん、お久しぶり。」

神崎息子はさらに驚いた。隆志を見て、なんだこの人?と感じざるを得なかった。

隆志は言う。

「ああ、こちら佐々木さん。俺が施設にいた時の施設長だった人。」

そして佐々木さんの方を向いて言う。

「この人、神崎会長の息子さん・・・あ、下の名前は?」

「あ・・・竜と言います。神崎竜です。」

佐々木さんは、冷静を装って「ようこそ。」と言う。

佐々木さんの案内で会長室に入る。部屋の奥、大きくて上品な机に老人が座っている。

「ようこそ、そちらの机に行くよ。」

老人は話す。神崎息子は、緊張せざるを得なかった。もう父との再会どころではない。スケールがでかすぎる。

老人・・・神崎会長は、鋭い目でこちらを見る。そして、「佐々木くん、ちょっと席を外しててくれ。」と言う。

佐々木は「かしこまりました。」と言い、部屋を出る。

隆志は、応接用の机にあるソファーに向かい座る。神崎息子もひとりではいられず、続けて隣に座る。

神崎会長がゆっくりと向かってきて、静かに向かいのソファーに腰を下ろす。

「さて、何から話そうか。」

神崎息子はもう話すこともできなかった。しかし、隆志は平然と言う。

「あれ、ラムネですよね。数日経っても症状がでないから、毒ではないはず。」

神崎会長は大笑いする。「そうか、君が飲んだのか。うまかっただろう?ラムネ。」

隆志はすかさず言う。

「うまかったッスけど、あれ食べてラムネが嫌いになりました。」

神崎会長は、真剣な顔つきになり、「君は何しに来た?」と聞いてきた。

「ちょ、ちょっと待って。隆志さんは、俺をあなたに会わせたくて・・・」

蚊帳の外だった神崎息子が、気まずそうに言う。神崎会長は隆志を睨んだままだ。隆志は笑いだした。

「何を怯えてるんですか、会長。自分の子を見て何も話しかけない人と話すことはない。帰ろう神崎竜さん。」

神崎息子は戸惑っている。自分は中学を卒業して、こんな街にも来たことないし、こんな大きなビルに来たこともない。家を出て、とにかくゴミ捨て場のようなところで働いてきた。こんな上品で威圧的な部屋にも入ったことがない。

隆志が立ち去ろうとすると、神崎竜がボソッと言った。

「父さん・・・」

神崎会長が息子を見る。

「なんで知ってたんだ・・・ラムネ。」

神崎会長は、少し沈黙の後、やさしい口調で言った。

「あれは、母さんが買ってたんじゃない。俺が買って母さんに渡していたんだ。」

神崎竜は下を向いた。泣いているようだった。

「なんだよ・・・なんだったんだよ、俺は・・・」

「お前はあの頃、悩んでいた。でも、母さんとの時間の時だけ笑顔を見せた。だから、お前の好きなラムネを、母さんに毎日渡した。母さんとの時間を作った。それだけだ。」

隆志は冷たいとも優しいともとれる眼差しで二人を見ていた。

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