【365日 後編】第十話

話は現在に戻る。

「グッバイスメル」を飲んでいた隆志は、節子と人生初のデートをしていた。でも、隆志にとって、それはデートというよりは、時間つぶしであった。

365日働き詰めだった隆志にとって、この何もしていない時間というのが、とても不安で仕方なかった。それに比べ、節子は緊張しながらも、映画館への道を案内していた。

隆志は考えていた。神埼さん・・・夢の中研究所の研究員だ。神埼さんにもうひとつ勧められている薬があった。それは「オサマラヌイカリ」というものだった。

どうやら、無気力を治すらしい。でも自分は、無気力なんかじゃない、そう思っていた。しかし、隆志の中での葛藤があった。「自分は正しいのか・・・:

節子との映画を見終えた後、隆志は、銀行に寄りたいと伝えた。

節子は、銀行で手続きをする隆志を待つことになった。隆志は、なにやら手続きをしている。公共料金の引き落としか何かかなと節子は思っていた。

隆志は、毎月行っていることがあった。メインバンクから、毎月ある団体に振り込みをしていた。今、その自動引き落としの金額を増やす手続きをしていた。

俺は月10万円だけあれば生活できる。あとはすべて振り込んでもらいたい。

そんな態度に、銀行員はちょっと怪訝な様子だったが、「それでは、振り込み引き落とし金額をさらに3万円増やさせて頂きます。」と答えた。

さらに、「振込先はこちらで間違いないですね?」と紙を差し出す。

「はい、間違いありません。」

その紙の振込先名欄には「NPO法人 飛龍会」と書かれていた。

そう、隆志は働き始めてからずっと、お世話になった「星の家」そしてそのオーナーである「NPO法人 飛龍会」にお金を振り込むという形で、恩返しをしていた。

そのために?隆志は働いていた。

今、隆志の中で、365日働いてきた理由付けがわからなくなっていた。

まだ、隆志は「飛龍会」の不正事件を知らない。
ただただ、このデートという時間で、お金を稼いでいない時間を過ごしているという罪悪感から、自分に対して叱咤するように、手続きを進めていた。

節子は、手続きをする隆志を待つ間、ドキドキしながらも、この時間、空間を楽しんでいた。自分は今、隆志と一緒に時間を過ごしている。それだけで幸せだった。

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