【365日】第五話

隆志はまた夢の中研究所に来ていた。
「神崎さん、新しい薬はないですか?」
神崎さんとはもうしい中だ。とはいっても仕事上の話だが。これだけ長期にわたって、モルモットをしてくれる人もいなかったので、神崎さんも信頼を寄せていた。
「そうですねぇ、あるにはあるんですが、そろそろ、あなた自身のためになにかやってはいかがですか?」
「ど、どういうことですか?」
「お金も十分稼いだでしょう。ちょっと体を休めて旅行でもどうですかと言ってます。」
隆志は目をギラギラさせながら、
「そんな時間はないんです。それに興味もないし。」
神崎さんは、ちょっと考えるように黙って、その後こう言った。
「じゃあ、今回はあなたの体に合ったお薬を用意しましょう。なにか気になるところありますか?」
隆志は考えた。特に健康でこれといったところはないし、仕事もバリバリやり、体調も万全だ。隆志が黙っていると神崎さんの方から言ってきた。
「それじゃあ、私からの提案です。こう言うと失礼なんですが、隆志さん、最近加齢臭がしますね。それを改善しましょうか。」
「か、加齢臭?そんなに臭います?」
「やはりお年もお年ですし、あなたケアをしてませんよね?」
「ま、まあ現場仕事ですから。それに自分にお金を使うなんて考えたことなかったので・・」
「じゃあ、決まりです。この『グッバイスメル』を試してみましょう。これは最近ある企業さんからデータどりしてほしいと頼まれたものです。」
隆志は、承諾した。電気工事の現場ではいいが、コンビニのバイトは接客業だ。加齢臭でクビになったら元も子もない。
その日から「グッバイスメル」を飲むようになった。数日飲んでみたが、なんだか変だ。いつものような副作用がない。それどころか爽快感がある。普通の人なら喜ぶべきところだが、隆志はちょっと怪訝な表情で神崎さんに連絡してみた。すると神崎さんは、
「今回は悪影響する副作用はありません。血液中にある匂いのもととなる成分を殺菌し、さらに言うと、男性フェロモンを増加させます。」
隆志はそれを聞いて、がっかりした気持ちになった。今まで副作用に苦労してきたが、その反面、薬の効いた時の嬉しさを共に共有していた。今回の薬は、何の苦労もなく良いことばかり薬だった。むしろ市場で求められる良い薬であった。隆志も数年間のモルモット生活と仕事に明け暮れていて、苦労のないお金はもらえないという感覚が根付いていた。
「これじゃあ、薬を処方してもらったのと同じじゃないですか。逆にお金を払わないといけません。」
「いえいえ、これも企業様からの要望ですから。弊社は企業様の要望にお応えして商売が成り立っています。今回はそのデータどりでしかないんです。」
隆志は、「そうですか」と強い口調で言うと、電話を切った。
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