【365日】第六話

その日はコンビニのバイトの日だった。いつも一緒にシフトに入る節子という30代半ばの女性と一緒に仕事をしていた。その日はお客さんが少なく、隆志は節子と世間話をする時間があった。隆志が話すというよりは、節子がしきりに話しかけてきた。
「隆志さんって最近輝いてますよね。なんか甘い香りもするし。」
隆志はぶっきらぼうに
「そう?気のせいじゃない?」
と返す。節子は
「実は前から誘おうと思ってたんですけど、これ、映画のチケット。一緒にどうですか?」
隆志は神崎さんの件もあって投げやりになっていた。薬も効いていたのかもいたのかもしれない。
「映画か・・・俺行ったことないけど、いいよ行くよ。」
節子は嬉しそうに「ありがとう!」と言った。
         *
ある雨の夜、二人の男女が周囲をチラチラ確認しながらやってくる。人の気配はない。もう深夜だった。男は女がすっぽりわれるうに傘をさしている。女は何かを守るように抱いている。赤ちゃんだった。赤ちゃんは静かに眠っている。たどり着いたのは総合病院。そのある明かりの前で止まった。父は早くしろと焦っている。母は赤ちゃんをギュッと抱いて離さない。男が何か怒ったように言う。そして赤ちゃんを奪うように引き取って、明かりの下の引き出しのようなところに入れ。母はその引出しに手をやり泣き叫んでるようだったが、雨の音にかき消されていた。そして、男に強引に引かれて足を地面にこすりながら連れられていった。
そこは、いわゆる赤ちゃんポスト。その赤ちゃんは指をくわえて眠っていた。ポストのセンサーに気づいた看護士がやってくる。看護士は無言で赤ちゃんを抱き上げ、清潔な場所へ移した。すると赤ちゃんは目を覚まし泣き出した。雨が強めに地面を叩く。それでも赤ちゃんの泣き声は病院内に響いた。後日その赤ちゃんは「隆志」と名付けられた。
        *
節子が待ち合わせ場所に行くと、隆志はすでに待っていた。「ごめんなさい、待たせてしまって・・」と言うか言わないかの間に隆志が、「早く映画行こう。」と言う。節子は少し焦りながら映画館への道を案内する。
節子は地味な子だった。高校を卒業すると、就職が決まらず、フリーターを続けていた。家も親とアパート暮らし。父親の転勤が多かったため、友達を作る暇がなかった。友達が出来てもすぐに別れが来るという生活だった。そんな中、コンビニでバイトをし、出会ったのが隆志だ。節子は一緒にシフトに入りながら、隆志の仕事熱心なところに少しずつ惹かれていった。声をかける度胸もなかったが、ある日、もう抑えられない気持ちから隆志を誘ってみた。自分なんて・・・と思っていたが、隆志の返答に嬉しくてたまらなかった。でも、嬉しいはずなのに緊張する。当日が迫れば迫るほど、どうしようと戸惑うばかりだった。

        *

テレビのニュースであるNPO法人が叩かれた。それは「飛鳥会」。役員の脱税が数億円という額だった。税務署の調査がそのビルに入る映像が流れる。複数の段ボールが運びだされる。その映像をただただ眺める男がいた。飛鳥会の児童保護施設「星の家」の施設長である山岡だった。その眼光は鋭く、テレビの画面を凝視していた。職員が本日の予定を報告に来たが、話しかけても山岡は気づかない。職員は、その異様な様子に気づき、その場を離れる。
NPO法人「飛龍会」の不正。それを見る山岡。そうとは知らず、節子と一緒にいる隆志。その関係とは。そして「夢の中研究所」がそのキーとなる存在になることを隆志は知る由もなかった。

     365日 前篇 完
Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA