「おい、小僧!どういうことだ!!」
男は決死の形相で部屋に入ってきた。少年はやはり背を向けベッドに横たわっていた。男は少年を覗き込むようにして言う。
「おまえ、日にちを俺に与えただろう、何してくれんだよ」
「だってあと9日間だろ、ちょうど俺の持ってた日にちだし」
少年はあっけらかんと言う。
「そんな情け貰わなくても、俺は俺で生きていけんだよ!」
男はいつものように朝、労働室に向かった。しかし、設定していた20日間を得ていたので、管理者に説明室に行くようにうながされた。男ははじめ、まじめに労働していた評価が高く次のステップへ物事が運べたと思っていた。しかし、説明室での管理者の話はこうだった。
相部屋の少年が、自分の所有する9日間を男に贈与したという。だから、男の所有する日にちが、11+9=20日間になったという。男はもともと、20日間ためて、説明室で一気に社会にでるすべを計画立てていた。
ここでの説明室とは、ハローワークのようなものである。しかも雇う(融資する)側もそれに応募する側も切羽詰まった状態なので、そのくらいの日にが目安となっていた。
しかしどうだろう。生きよう、社会に復帰しようという男とは別に、少年は安楽死を選択し、さらに残った日にちも簡単に捨てていた。
でも、それよりも男を怒らせる事実があった。
9日間を捨てるということは、あと1日で安楽死するという事ではなかった。9日間は監禁されている。そう、飲まず食わずで9日間を過ごすのである。その説明を聞いたうえで少年は男に9日間を与えたのである。
「とりあえず、水とメシは俺が何とかする。安楽死でも何でもすりゃあいいが、相部屋の子供が衰弱するさまを見てらんねぇからな」
それに対し少年は淡々という。
「そんな無駄な使い方しないでよ。せっかくあげた日にちなんだから」
男は鼻息荒く言う。
「ふざけんなよ、そんな情け欲しいなんて言ったか?俺は俺でやってくと決めたんだよ!最期に善人にでもなった気持ちでいんのか?その気持ちがあるなら生きろよ」
少年は黙っていた。
「日にちの贈与による場合、それを日にちで返すことはできないらしい。だからせめて水と飯くらいださせてくれよ・・・」
「・・・なあおいちゃん、人を殺したことあるか?」
男はすぐに察した。ここに入るやつで人殺しはいくらでもいる。
「おまえ、やったのか?」
「ああ、実の親父をやったよ。金属バッドでボコボコに殴り殺した」
「そんな事、あっちゃいけないが、これから償えばいいだろ?」
少年は起き上がって、男に体を向け座った。
「なんかな、心臓が痛いんだよ。どうしようもない父親だったけど、苦しくて仕方ないんだよ。正直なところ、メシも食えねえくらい辛いんだよ」
「・・・」
男はその少年のかみしめるような言い方と内容に何も言えなかった。そして優しく言う。
「なんでこんな事になっちまったんだろう・・・そうか、辛かったな」
少年は顔をゆがませていた。しかし泣いてはいなかった。
「わかった。水かゼリーのようなものだったら食えるだろ、交換してくるよ」
少年は「いらないよ」と小声で言い、再び背を向けて寝転がった。
それから、男は説明室に通いつつ、水やゼリー、氷なんかをベッドの横に置いておいたが、それを少年が食べた形跡がなく、日にちだけが過ぎていった。