【ポイント】第十話

ある日、男が説明室から帰ってくると、少年が何か飲んでいた。男は『よかった』と思いながら、部屋に入っていく。

しかし、その光景がはっきり見えたときに、男は愕然とした。そして、すぐさま少年からその飲み物らしきものが入ったビニール袋を取り上げた。

「おい、これは汚物のビニール袋じゃないか。なんで俺が用意した水を飲まないんだ」

少年は答える力もなく、ベッドに横たわった。男は汚物の入ったビニール袋を縛って地面に置くと、頭を抱えるようにして、ベッドに腰かけた。

少し間を置き、男は話し出した。

「今おまえにどれだけ意識があるかわからないけど、聞いてくれ」

少年はピクリともしない。

「俺は、小さい頃から自分勝手だった。弱いものをいじめたり、グループを作って無視するようにうながしたりした。でもそれはポイントに影響しない見えないものだと思っていた。

でもそれは違っていた。ポイントセンサーが各所にあるだろ。あれは、善い行いをしたものを感知しポイントを付加し、悪いことをした者からポイントを消費させるだけではなかった。その人の脳波までも感知するものだった。

要するに人の価値を厳密に感知するものでもあった。善い行いをしても、ポイント欲しさに行っている者を識別し、人間の価値を測っていた。

俺は普通に就職し、善人を装いある人物を追い込んだ。そいつを悪者にしたてる事によって、自分の善意が証明されるという行動に出た。見かけ上のポイントは増えていったがそうではなかった。

俺のポイント残高は消費されるばかりで、ほとんど残っていなかった。そしてとどめは、追い込んだやつの自殺だ。

俺は、目先の欲にかられ、本当に大切なものを見失っていた」

男はうつむいたまま、話を続けた。

「ここに来て初めてそういったことを知ったが、でもなんでだ。ルームメイトのしかも年も若い男の子にそんな思いをさせないといけないんだ・・・」

「もうポイントなんてどうでもいいんだ。ここ数日、毎日が辛くて仕方がない。弱っていくおまえを見るのが辛くて仕方がないんだ。俺に日にちを与え、そのさまを見せるお前に怒りを感じたこともあったが、もう許してほしい・・・」

少年は少しもぞもぞと動き、か細く震えた手で何かを探り始めた。男はそれを見て「どうした、何か欲しいのか?」と問う。

少年は必死に水のペットボトルをつかもうとしていた。男は「水だな、ちょっと待ってろ」と言うと、水の入ったペットボトルを取り、少年を抱きかかえるように体勢をとって、優しく口に持って行った。

少年はゲホゲホしながら、少しずつ水を飲んでいた。男は「よかった・・・よかった・・・」と潤んだ目で少年を見つめていた。

少年のもういいというような素振りを見て、男はまた少年を静かにベッドに横たわらせた。少年の声とも聞こえない唇の動きに「ありがとう」という言葉が読み取れた。男は男泣きに泣いた。

 

その次の日の朝、監視人が部屋を訪れた。男は思った。『そうか、もう9日経ったのか』。少年の方に目をやると、もう少年は身動きできないという体だった。そして、その後の監視人の言葉に驚いた。

「新城、今日面会が入っている。安楽死の1日分を面会で使わせてもらう。まあ動けないようだから、あとで運びに来る。それまで気力で死なないで待ってろ」

男はこの展開がよくわからなかったが、『新城』という名前は絶対忘れないと心に誓った。

 

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