妻と結婚して、はや十年。
お互い空気のような関係になっていた。
しかし、夫はこの十年間、ずっと黙っていたことがあった。
それは、『カツラ』。
もう話してもいいものだが、夫は言い出せずにいた。
それは、この十年間ウソをついていたというのと、なんといっても妻のヅラに対する発言だった。
テレビを見ていると、必ずこの「ヅラ」という言葉を吐く。
「この人、ヅラでしょ!」
「なんでヅラって分かる人を出すかな。」
等々である。
この発言のたびに、夫は、グサグサと胸を打たれるのであった。
そんな日々が続く中、十年目の結婚記念日がやってきた。
夫は、会社が終わると、予約していたケーキを取りに行き、家に帰った。
妻にはスイートダイヤモンドを買ってと言われていたが、夫の給料じゃあ無理だった。
気持ちということで、ケーキと簡単なプレゼントを用意していた。
家に帰る。妻に真っ先に「十年間ありがとう」と言う。
妻は「え?」と言う。結婚記念日を忘れていたらしい。
「ああ、今日結婚記念日だったのね。」
夫は、ケーキを差し出し、その後簡単なプレゼントを渡す。
「え?スイートダイヤモンドじゃないの?普通。」
「す、すまない。迷惑ばかりかけて・・・」
妻は本当よという態度で、何かを取りに行った。
夫は、「はぁ~」とため息をつきながら、夕食を食べようとしていると、妻が帰ってきた。
そして、妻が言う。
「じゃあ、私からのプレゼント。」
夫は振り向く。そこには、手にプレゼントを持った妻がいた。
え?覚えてたんだというビックリした顔をしていると、妻が言う。
「開けてみて!」
包装を開けてみる。
すると、
「・・・・!」
なんとそこには、カツラがあった。
そう、妻は夫がカツラだっていうことを知っていたのだ。
夫は、
「え?か、カツラ・・・」
「あんたもバカだよね。あんたのことなんてよくわかってるわよ。もちろんカツラのこともね。」
夫は何も言わずに、泣きそうになっていた。
妻は続けて言う。
「これからは、私がカツラを選ぶからね。もう隠さなくていいわよ。」
・・・・
数日後の休日、妻と夫はショッピングに来ていた。
もちろん夫の頭には、プレゼントされたカツラがあった。
妻が笑って言う。
「ねえ、あんた、もうカツラじゃなくて、植毛にしたら?」
夫は笑いながら、妻の手を握った。