男は、髪の毛がうっとおしくて仕方がなかった。
彼は、建築業をしており、いつも現場仕事だった。
なぜか、ひげは生えても気にならないのだが、髪の毛には異常に反応していた。
いつか、坊主にしてやる、と思っていた。
ただ、妻が許さないため、刈り上げで我慢していた。
そんなある時、テレビで好きなタレントが、坊主にしましたと言って出てきた。
それは、役作りのための坊主だったのだが、男には大きなインパクトを与えた。
すぐに妻の元へ行き、こう言った。
「俺、坊主にする。」
妻は、
「あんた、子供の気持ち考えな。ご近所さんの目もあるし。」
と言う。
しかし、男は引かない。
次の日、床屋に行き、こう言った。
「五分刈りにして下さい。」
床屋を出た後、晴れた気持ちでいっぱいだった。
頭の感触を何回も確かめた。
すると、携帯がなる。実の母からだ。
ちょっと家電が壊れたので、来てほしいとのこと。
ちょっと自慢気に母の元へ向かった。
家に入る。
母が喋りかける。
「このエアコンが・・・」
その時、母と目が合う。すると、母の目つきが変わり、怒鳴りつけてきた。
「あんた!ヤクザになったの?」
え?や、やくざ??
母の頭のなかでは、坊主=ヤクザだったみたいだ。
「い、いや・・・」
母はすごい剣幕で言う。
「そんな子はうちの子ではないよ!出ていきな!!」
「あ、これは・・ちょっと会社で失敗しちゃって・・・。そう、反省の印。」
「はあ・・あんたはもう、仕方がないんだから。昔っからそうだ。」
男は苦し紛れの嘘をついた。
そんなことする必要もない年頃なのだが。
「まあいい。ちょっとエアコンみて。」
男は、エアコンを直して実家を出た。
家に帰る途中、ワークマンにより、ニット帽を買った。 男の背中は、何故か哀愁が漂っていた。