【一話完結】笑う男

いつでも笑っている男がいた。

上司に怒られている時も、彼女にフラれた時も、いつも笑っていた。

まわりからは、「気持ち悪い」「なんだあいつ」と言われ、まともに話をしてもらえなかった。

それでもその男は笑っていた。

そんな男がある日、会社を数日休んだ。

なにも知らない周りの社員は、その男が出勤すると、その様子をうかがった。

しかし、その男は、いつものように笑っていた。

まわりは、風邪かなんかだったんだ、と思っていた。

ある社員が・・・その男が目につく社員が、上司に進言した。

「あの笑ってばかりいる社員が、数日間休んだせいで、仕事がこちらに回ってくるんですけど。」

上司は言った。

「実はな、彼の母が亡くなったんだ。それで休んでいたんだ。」

その噂は、会社中に広まった。

ただ、それでも会社では、男は笑っているので、頭にきた社員がその男に言いに行った。

「おまえ、なにヘラヘラしてんだよ!親が亡くなったなんだろ!」

笑う男は言う。

「そうだね、亡くなったね。もっと笑わなくちゃね。」

「おまえ、おかしいんじゃねぇか。悲しくないのか?」

「悲しいさ。でもね、泣くともっと不幸になるから。」

「・・・どういうことだ?」

「亡くなった母が言ってたよ。どんなに辛い時も、悲しい時も笑っていろと。幸せは笑う人にしか来ないと。」

どうやら、事情がありそうな雰囲気だったので、詳しく聞いてみた。

するとこうだ。

母は、昔から笑いなさいと言って、その男を育てたらしい。

なぜなら、笑うことでみんなが幸せになるから。

でも、男は信じなかった。

そんな折、母がある病気にかかった。末期のガンだ。

その男は、なんでもするから母の病気を治して欲しいと願った。

母に何が欲しい?なんでもしてやると言い切った。

すると母はこう言う。

「笑っていて欲しい。それだけ。」

男はそれから笑うようにした。

どんなに辛い時も、どんなに悲しい時も。

でも、そんな母も亡くなった。

こんなに辛いのに悲しいのに、笑っていないとやっていけないよ、とその男は言う。

聞いた社員は黙っていた。

笑う男は、笑いながら一筋の涙を流していた。

数週間後、笑う男の転勤が決まった。

もう、笑う男の悪口を言う社員はいなかった。

笑う男は、「お世話になりました」と挨拶をする。

笑う男も笑っていたが、まわりの社員も笑っていた。

それは、涙をこらえての笑いにもみえた。 しかし、その営業所の全員が笑っていた。

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