つっぱり高校生でも、やはり男。
つるんでる女ヤンキーの中で、シャキシャキものを言うS子に、ハゲ男は恋をした。
S子は、ただのヤンキーではなかった。
姉御肌で、面倒見のいい、勉強もできる女の子でもあった。
ある時、ハゲ男は、S子を誘ってみた。
S子は快くついてきてくれた。
ご飯を一緒に食べ、ふたりきりで夜の街を歩いていた。
ふと、ハゲ男が言う。
「S子、おまえ好きな人いるのか?」
「いや、今はいない。」
「そうか、じゃあ付き合ってみないか?」
「・・・それはできないな。」
「え?なんで?」
S子は黙っていた。少し沈黙が続いた。
そしてS子は立ち止まった。こちらを向き、真剣な眼差しで見て言った。
「わたし、ハゲは嫌いなの。」
「・・・?」
「正確に言うと、ハゲを隠す人が嫌いなの。」
「俺はハゲをかくしてなんていないよ。見てくれよ、この剃りこみ。丸出しじゃん。」
「そこなのよ、その剃りこみって言ってるのって、剃りこみじゃなくて、ハゲでしょ?」
「・・・・」
「剃りこみ風に見せてる、その姿勢が中途半端に見えるのよ。」
「じゃあ、スキンヘッドにするよ。髪の毛なんて関係ないじゃん。」
「それも同じ。スキンヘッドにして、『俺はハゲじゃない』って見せるのも、それは隠してるのと同じなのよ。」
ハゲ男は黙っていた。
ハゲてることをどう思われてもいいと思ってるハゲ男は、そんな理由で断られる理由がわからなかった。
むしろ、自分は、ハゲてるを強調してやってきたつもりだった。
しかし、それは違っていた。
ハゲを隠してる、そんなことを言われた事によって・・・いや、振られたことに対して、猛烈な怒りを感じていた。
S子に対してではない。やり場のない怒りがこみ上げていた。
S子は言う。
「ごめん、言い過ぎたかもしれない。でも、はっきり言わないとそれこそひどいと思ったから。」
そう言うと、S子は走り去って行ってしまった。
次の日、ハゲ男は新しい髪型で登場していた。そう、スキンヘッド。
しかし、それは、ハゲを気にしてのことではなかった。一つのけじめだった。
ハゲ男流のけじめだった。
しかも、眉毛も一緒に剃っていた。それは、毛に対する怒りだと象徴するようでもあった。
もう、その見た目に、誰もハゲ男に歯向かうものはいなかった。
ただ、ハゲ男の心境は変わりつつあった。
もう、不良はやめよう。スキンヘッドの眉毛なしで、そんなことを思うのであった。
第三話 チャレンジコンテスト
高校も卒業間近となったある日、ハゲ男はある広告を見た。
それは、育毛にチャレンジコンテストだった。髪の薄い人が、その会社の育毛剤を使い、数ヶ月でどこまでフサフサになれるか競うというものだった。優勝賞金1000万円だった。
ハゲ男は、髪もお金も興味なかったが、暇だったので応募してみた。
自分の顔と頭の写真を撮り、応募用紙を送った。
もちろんすぐに返答がきた。
育毛剤・・・最初の2か月は無料提供。しかし、3か月目からは有料になる。
ただし、コンテストに参加するには、最低半年はチャレンジしなくていけない。
1か月数万円かかるが、とりあえず2か月がんばろうと思った。
しかし、この男、ハゲを気にしないくらいのでかい男。
マメに育毛剤をつけることはしない。
朝起きて、顔を洗った後に、一日分(通常3回にわける)の育毛剤を頭から、ドシャっとかける。
顔の方にしたたり落ちるが気にしない。そのまま学校へ登校する。
拭き取らないのだ。
そんな日が2か月続いた。
そして、もう飽きてしまっていたのとお金がないのを理由に、その育毛剤(コンテストも含めて)辞退しようと決めた。
ただ、2か月前とどれだけ変わったか、写真を見て比べてみた。
頭部・・・かわらない。いやむしろ、薄くなってる?
剃りこみ・・・やはりかわらない
その他の部分・・・よくわからない
はぁ、とため息をついて、写真を鏡の横に置いて、ボーっと鏡を見つめていた。
すると、何かが変わっている。
ん?と思い、よくよく見てみる。
あ!眉毛だ!
そう、あのしたたり落ちてた育毛剤は、眉毛を育毛していたのだ。
しかも、剛毛になっただけでなく、繋がりそうな勢いだった。
それから、ハゲ男は、育毛剤の会社に契約解除を申し出た。
電話の向こうで、「どうでしたか?効果はありませんでしたか?」と聞かれたが、男は、
「ハゲは治りませんでしたが、よく効く薬だと思います。」と答えた。
次の日、男は眉毛を全部剃って学校へ登校した。
しかし、もう彼の外見を気にする同級生はいなかった。