多摩川にゴマちゃんという愛称で親しまれた「ゴマアザラシ」が住んでいました。
天気の良い日は、近所の人が集まってきます。
「あ、ゴマちゃんだ〜!カワイイ♪」
しかし、ゴマちゃんは人間の言葉がわかっていました。
子どもたちが、餌を与えに来ると、ゴマちゃんはいつものように、陸に上がっていきます。
『おおぅ、やっぱ陸はしんどいなぁ。でも、食いもん食うためだ』
「きゃー、カワイイ。写真写真」
『おー、ホタテじゃねーか。缶詰みたいだけど、人間の缶詰はうめぇんだよな』
「あ、食べてる食べてる!」
ゴマちゃん人気は広まり、近所の人だけでなく、遠方から来る人の増えてきました。
「なんか、ゴマちゃん可哀想じゃないか?自然に返してあげたほうがいいんじゃないか?」
そんな声が聞こえて聞こえてきます。
『おい、ちょっと待て。写真ならいくらでも撮っていいが、この住み家を奪うようなこと言うなよ』
「餌だって自分で取るから、あげないほうがいいよ。だって野生だもの」
『ふざけんな、こっちはこんな汚い川に住むって決めたんだ。お前ら勝手に決めんな』
数日後、市の職員がゴマちゃんを捕獲に来ました。
どうやら、自然に返すのではなく、動物園に入れることに決めたようです。
垂れ幕まであります。
― ゴマちゃんを○○動物園へ ―
動物園の人も来ています。
「ゴマアザラシは、○○の習性があります・・・そこで・・・やって・・・捕まえましょう」
『聞いてられないや、身をかくすか』
テレビのニュースが流れました。
「本日、ゴマちゃんの愛称で人気のゴマアザラシを捕獲し、動物園に搬送する予定でしたが、ゴマちゃんは顔を出すことはありませんでした。心配ですねぇ」
「次、お天気です、宮本さん」
「はい、宮本です。明日から低気圧が停滞し、天気は荒れ模様です」
― ― 次の日 ― ―
朝から大雨で、多摩川は数年ぶりの大氾濫でした。
『くそー、負けてたまるか。こんなことで死んでたまるか。俺はここで生きるって決めたんだ。グホッ・・・ダメだ流されてる・・・てか、体中痛みも感じね〜。どこ怪我してんだ・・・グルグル回されて・・・アウアッ・・・』
― ― 数週間後 ― ―
氾濫後の川のゴミ清掃場にて
職員A「これ、アザラシじゃねーか」
職員B「もしかして、ゴマ?」
職員A「死んでるな」
職員B「まあこの氾濫だもんな」
職員A「燃えるに入れといて」
職員B「はいはい」