「会話が空回りするなぁ、なんなんだこら。」
ひとり歩きながら、ぼやくFさん。
「大体、ボケが少ないんだよ。みんなツッコミばかりで。なんなんだよ」
Fさんは笑いなんてわかっちゃいない。最近はツッコミのようでボケツッコミみたいな、そんな会話が飛び交う。
「ボケはボケでいいじゃんか。だから新しいことを生み出せないんだよ」
十分新しいものは世に出回っている。それを知らないだけだった。
「線路を走っているんじゃねえんだ。自由にしゃべらせてくれよ。荒れた高野を進まなきゃだめだ」
そういうFさんは、アスファルトで整備された歩道の上をまっずぐ歩いていた。
「まあ、順応は必要なんだよな。そういう時代の流れはわかってるんだけどな・・・」
そう、そこをしっかり理解して欲しい。
「だからこそ、空回りしてしまうんだよな。会話の練習でもしようかな」
最近の若者は、映像でマンガで視覚から会話の感覚を掴んでいる。しかも楽しみながら。
「でも、俺面倒くさがりだからな。あ、そうだ」
この思いつき。かなり怪しい。
「キャバクラ行こう。おねーちゃんと話しながら、会話の練習だ!」
この短絡さ。あなたはボケでもなんでもない。
「でもなぁ、俺は安月給だから、高級クラブなんて行けないんだよな」
そうそう、安いキャバクラでの会話なんて知れている。
「Lineで友人と話すのも、なんか苦手だしなぁ」
自分らしさだよ。
「また空回りしちゃうしな…」
自然体が一番。お前は芸人ではない。
「なんかこうパアッとしないな。新しい音楽でもダウンロードしようかな」
考えすぎの時は、気分転換がいい。
『ぴろり~ん』
その時だった。Lineが鳴った。誰かからのメッセージだ。
『なんでやねん』
さっき、Lineでやりとりしていた友人からだった。
友人とのやりとりはこうだった。
友人 『なんか車買ったんだって?』
F 『そうそう、中古だけど1万キロ以下だよ』
友人 『なんていう車?』
F 『写真送るよ』
友人 『おう、送ってくれよ』
F 写真添付(バッドマンカーと横に立つバッドマン)
友人 『おう、かっこいいね。しかもコスプレ?その衣装、痩せて見えるね』
F 『あ、このことは内緒ね。悪の住人にバレたらやばいから』
しばらく返信がなかった。
Fは追い打ちをかけて打診した。
F 『俺、今からキャサリンを助けないといけないから、話はあとでね』
それでも返信がない。Fはひくにひけない。
10分待った。そして、
F 『お待たせ。キャサリンは無事救出したよ。この黒い車でドライブ行く?』
それからだった。友人から返信のないLineを閉じて、ボヤキがはじまった。
これは、会話が空回りしているのではなく、F自身が空回りしているだけだった。
もっと言うと、気にし過ぎだった。
しかし今、『なんでやねん』と回答が来た。
Fは嬉しくてたまらなかった。スマホの画面のLineの内容を確認しながら、心の中で「よしっ!」と言っていた。
でも返事はしなかった。それは、また「空回り」したくなかったからだ。
Fは、スマホをしまい、笑顔で歩いていた。
整備された歩道のど真ん中をまっすぐに歩いていた。